はじめに

歯を抜いたあとの歯ぐきや骨は、時間の経過とともに幅が細くなり、形が変化していきます。とくに前歯部では、 その変化が見た目(審美性)に直結するため、インプラントやブリッジ治療の結果に大きく影響します。

その「抜歯後の形態変化」をできる限り抑えるために、これまで骨補填材などを用いた“リッジプリザベーション”が多く提案されてきました。 一方で、Gluckmanらが提唱した Partial Extraction Therapies(PET:部分抜歯療法) は、少し違う発想です。

PETは、歯(歯根)の一部をあえて残すことで、歯根膜(PDL)とそれに付随する血流を温存し、 いわゆる “バンドルボーン(歯根膜由来の骨)” の喪失を抑えることで、歯槽堤の形を守ろうとする考え方です。

 

論文の紹介

Gluckman H, Salama M, Du Toit J.
Partial Extraction Therapies (PET) Part 1: Maintaining Alveolar Ridge Contour at Pontic and Immediate Implant Sites.
Int J Periodontics Restorative Dent. 2016;36(5):681–687. doi:10.11607/prd.2783

論文URL(PubMed):
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27560672/

 

この論文が伝えていること(要点)

  • 抜歯後の歯槽堤の“頬舌的な潰れ(buccopalatal collapse)”は大きな課題
    審美領域では、歯ぐきの厚み・カーブが崩れると、治療後の自然さに影響します。
  • 原因の根本は「歯根膜とバンドルボーン複合体(BB-PDL complex)の喪失」
    “抜く”という行為そのものが、骨が痩せる生理学的プロセスの引き金になります。
  • PETは「増やす」より「守る」発想
    追加の造成で補うのではなく、歯根の一部を残すことで、組織の変化を抑えることを狙います。

 

PET(部分抜歯療法)の分類:代表的な4つ

論文では、PETを臨床状況に応じて整理し、適応の考え方を提示しています。代表的には次の4つです。

  • Root Submergence(ルートサブマージェンス)
    歯根を歯ぐきの中に“沈めて残す”方法。主にブリッジのポンティック部位や義歯下で、 歯槽堤の形態維持を狙います(ただし、根尖病変がないことや根管治療の完了など条件があります)。
  • Socket-Shield(ソケットシールド)
    抜歯即時インプラントの際に、頬側の歯根片を残し、インプラントを口蓋側に配置する考え方。 頬側骨・歯肉のボリューム維持を狙います。
  • Pontic Shield(ポンティックシールド)
    ポンティック(ダミー歯)を作る予定の部位で頬側歯根片を残し、ソケットを補填材などで管理しながら 歯槽堤形態を守る方法。根尖病変などでルートサブマージェンスが難しい場合の代替になり得ます。
  • Proximal Socket-Shield(近心・遠心側のシールド:乳頭温存を意図)
    隣接インプラントなど