
はじめに
インプラント治療では、抜歯後に起こる「骨や歯ぐきの痩せ」が、治療後の見た目や機能に影響する大きな課題とされています。特に前歯部のように審美性が求められる場所では、少しの変化でも自然な仕上がりを損なうことがあります。
その課題に対して、近年注目されているのがSocket-Shield Technique(ソケットシールドテクニック)です。この方法は、抜歯した歯の頬側(表側)の根の一部を残すことで、周囲組織の急激な吸収を抑えることを目的としています。
今回ご紹介する論文は、この手法を臨床の現場で検証した重要な文献のひとつであり、当院が治療の選択肢として検討する際の根拠の一部となっています。
論文の概要
本論文「Gluckman H, Du Toit J, Salama M. “The socket-shield technique to support the buccofacial tissues at immediate implant placement.”」では、即時インプラント埋入と同時に歯根の一部を残すことで、どの程度頬側組織が保たれるかが検証されています。
- ・歯根の頬側部分を残すことで、歯根膜や血流を温存し、抜歯後の組織変化を最小限に抑えることを目的とした技術である。
- ・インプラントは歯根片の裏側(口蓋側)へ配置し、頬側組織に十分なスペースを確保する。
- ・1年のフォローアップで、頬側の組織ボリュームが良好に維持されていることが確認されている。
- ・一方で、長期的なデータはまだ少ないため、適応症には慎重な診断が必要。
この論文は、前歯部の審美インプラントにおいて、組織の自然な厚みを保つための価値あるアプローチを提示しています。
当院での活用方針
ソケットシールドテクニックは魅力的な方法ですが、非常に繊細な手技であり、すべての症例に適応できるわけではありません。当院では、以下の基準をもとに慎重に活用しています。
- ・安全性と長期性を最優先し、適応条件を満たす症例に限定して検討
- ・前歯部など審美性が特に重要なケースで、組織維持が期待できる場合に選択肢として提示
- ・歯根形態、感染の有無、骨の厚み、生活習慣などを総合評価し、患者さんごとに最適な方法を選択
- ・発生し得るリスク(歯根片の吸収・感染・長期予後の不確実性)については丁寧に説明し、同意の上で判断
ソケットシールドは万能ではありませんが、条件が整ったケースでは、従来の骨造成や結合組織移植と並び「審美性を高めるための有効な選択肢の一つ」として位置づけています。
治療への応用ポイント
- ・抜歯時の頬側組織へのダメージを最小限にする技術的工夫
- ・インプラントをやや口蓋側へ配置し、頬側組織のスペースを確保
- ・インプラントと歯根片の間(jump gap)に適切な骨補填材を選択して充填
- ・結果が不確実な場合は無理に採用せず、骨造成・CTGなど別の手法を提案
まとめ
ソケットシールドテクニックは、審美性が求められる前歯部で、より自然な治療結果を目指すための魅力的なアプローチです。
今回紹介した論文は、1年間のフォローアップにおいて良好な組織の維持が示されており、治療選択肢を広げる重要な根拠となっています。ただし、長期データがまだ十分でないこと、適応条件が限られることから、当院では患者さんの状態を丁寧に診査した上で最適な選択肢のひとつとしてご提案しています。
本当に後悔しないインプラント治療を東京で
東京審美インプラント治療ガイド
監修:松本デンタルオフィス東京
所在地:東京都東大和市清原4丁目10−27 M‐ONEビル 2F
電話:042-569-8127
*監修者
医療法人社団桜風会 松本デンタルオフィス
院長 松本圭史
*経歴
2005年 日本大学歯学部卒業。2005年 日本大学歯学部歯科補綴学第Ⅲ講座 入局。
2006年 日本大学歯学部大学院 入学。2010年 同上 卒業。
2010年 日本大学歯学部歯学部歯科補綴学第Ⅲ講座 助教
2013年 日本大学歯学部歯学部歯科補綴学第Ⅲ講座 専修医
2016年 医療法人社団桜風会 松本デンタルオフィス 新規開院
*所属学会
・日本補綴歯科学会
・日本口腔インプラント学会
・日本歯科審美学会
・日本顎咬合学会
*スタディグループ
・5-D Japan
・Esthetic Explores
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