【論文紹介】ポンティックシールド(Pontic-Shield)とは?― ポンティック部位の歯ぐき・骨の形態を守る「部分抜歯療法(PET)」の考え方(Gluckmanら 2016)―

 

はじめに

欠損部をブリッジやインプラント支持の固定式補綴で回復する際、ダミー歯(ポンティック)を自然に見せるためには、 歯ぐきのカーブやふくらみ、いわゆる「土台(歯槽堤)の形」がとても重要です。

ところが、抜歯後の歯槽堤は時間とともに吸収し、特に頬側(表側)の吸収が大きく出やすいことが知られています。 その結果、ポンティックを置く場所の歯ぐきが“へこむ”ことで、見た目や清掃性に影響することがあります。

今回ご紹介する論文は、そうした課題に対して「増やす」だけでなく「守る」という発想で、 歯根の一部を意図的に残すことで歯槽堤形態の維持を目指す ポンティックシールド(Pontic-Shield) を、 症例ベースで検討した報告です。

 

論文の紹介

Gluckman H, Du Toit J, Salama M.
The Pontic-Shield: Partial Extraction Therapy for Ridge Preservation and Pontic Site Development.
Int J Periodontics Restorative Dent. 2016;36(3):417–423. doi:10.11607/prd.2651

論文URL(PubMed):
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27100812/

 

この論文の要点(何を示した報告?)

本論文は、10名・14部位のケースシリーズ(後ろ向き)として、 ソケットシールドの考え方をポンティック部位へ応用した「ポンティックシールド」により、 歯槽堤形態の維持とポンティックサイトの形成がどのように行えるかを示しています。

  • 狙い:歯根(頬側の歯根片)を残し、歯根膜と関連する組織(BB–PDL複合体)を温存して、抜歯後の“つぶれ”を抑える
  • 手技の柱:頬側歯根片を「1mm程度、歯槽頂よりわずかに上に」残しつつ、薄く・やや凹面に整え、ソケット内を骨補填材で管理する
  • 治癒の流れ:最短90日以上の治癒後、暫間補綴のポンティック圧(中等度)でさらに約90日、歯肉形態を整える
  • 結果:12〜18か月フォローで、全例で主観的評価として「歯槽堤の形態維持」が得られた

 

論文が示す重要ポイント:成功の鍵は「閉鎖」

この論文で非常に実務的に重要なのは、軟組織による創部の外科的閉鎖が結果に強く影響すると示されている点です。 実際に、閉鎖を行わなかった症例ではシールド露出が生じ、治癒が延長し、追加の外科的閉鎖が必要になったと報告されています。

一方で、閉鎖方法としては複数の選択肢が紹介されており、とくにZucchelliのCTG(結合組織移植)を頬側・口蓋側のポーチへ挿入して閉鎖する方法で 最も良好な経過が得られたことが推奨として述べられています。

 

当院での活用方針(適応を厳密に)

ポンティックシールドは、審美性の維持において魅力的な考え方ですが、適応と術式が非常に重要です。 当院では、以下を前提として慎重に検討します。

  • 感染・炎症リスクの評価:根尖病変や強い炎症がある場合は、別法(治療手順や治癒期間の確保)を優先することがあります
  • 歯根形態・骨形態の確認:CT等で頬側骨の状態、歯根の形、欠損形態を把握し、成立条件を精査します
  • 代替案の提示:ソケットプリザベーション、GBR、軟組織増大など、複数の選択肢から比較して提案します
  • リスク説明:シールド露出、治癒遅延、追加処置の可能性などを事前に丁寧に共有し、同意の上で進めます

 

当院が臨床に落とし込んでいるポイント

  • 1)「残す量」と「整え方」を設計する
    歯根片を残す目的は“形態維持”ですが、過度に薄くすると不安定になり得るため、 適切な厚みと形態(やや凹面)を意識して設計します。
  • 2)ソケット内の管理(骨補填材など)を適切に行う
    ポンティック部位の治癒環境を整えるため、症例に応じて骨補填材の選択・充填方法を検討します。
  • 3)「閉鎖」を軽視しない
    論文でも、閉鎖を省略したケースで露出・治癒遅延が起きています。 当院でも、閉鎖方法を含めた軟組織マネジメントを治療計画の中心に置きます。
  • 4)暫間補綴で“仕上げる”
    治癒後に暫間補綴のポンティック形態・圧のかけ方を調整し、 最終補綴に向けて歯肉のフレーム(形)を整えていきます。

 

まとめ

Gluckmanらの本論文は、ポンティック部位においても「部分抜歯療法(PET)」の考え方を応用し、 歯槽堤の形態維持とポンティックサイト形成を目指せる可能性を示した報告です。

当院では、このような文献的知見を踏まえつつ、患者さんごとの条件(感染リスク、骨・歯肉の形態、審美要求、清掃性など)を丁寧に評価し、 必要に応じて他の方法(骨造成・軟組織増大など)も含めて、最適な治療計画をご提案しています。 気になる点があれば、お気軽にご相談ください。