
はじめに
前歯部のインプラント治療では、抜歯後に起こる歯ぐき・骨(特に頬側)のボリューム変化が、仕上がりの自然さに直結します。 一般的なソケットプリザベーションや骨補填材を用いた方法でも、組織の変化を「完全に止める」ことは難しいのが現実です。
そこで近年注目されている考え方の一つが、歯根膜(PDL)由来の血流や細胞供給を生かし、頬側組織の形態を守る PDL-mediated ridge preservation(歯根膜を介したリッジ保存)という発想です。 本ページでは、その具体的手技をステップごとに示した Mitsias らの論文を紹介し、当院が治療計画にどう反映しているかを解説します。
論文の紹介
Mitsias ME, Siormpas KD, Kontsiotou-Siormpa E, Prasad H, Garber D, Kotsakis GA.
A Step-by-Step Description of PDL-Mediated Ridge Preservation for Immediate Implant Rehabilitation in the Esthetic Region.
Int J Periodontics Restorative Dent. 2015;35(6):835–841. doi:10.11607/prd.2148
この論文の目的は、いわゆるRoot-Membrane Technique(ルートメンブレン・テクニック)を、 臨床で再現できるように「手順」を詳細に提示することです。
抜歯と同時にインプラントを行いながら、頬側の歯根片(ルートフラグメント)を意図的に残して組織形態の安定を狙います。
論文URL(PubMed):
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26509987/
論文で示されているポイント
- 症例背景:上顎中切歯の水平性歯根破折(37歳女性)。CBCTで頬側骨が非常に薄く(約0.2〜0.7mm)、 通常の抜歯即時埋入ではリスクが高い状況。
- 治療コンセプト:頬側の歯根片を残し(PDLを温存)、インプラントを口蓋側寄りに配置して機能回復も同時に目指す。
- 経過:即時の暫間補綴(非機能負荷)を行い、3年フォローで軟組織形態の安定が良好に保たれた。
本論文の「ステップ」を当院が重視する理由
本論文の価値は、「うまくいった」という結論だけでなく、どの操作が組織安定に関与し得るかを、 具体的な術式として示している点にあります。特に、審美領域では術式の細部(削る量、残す位置、埋入方向)が結果に直結します。 当院でも、同様の考え方を治療計画・術式設計の検討材料として活用しています。
当院での活用方針(適応を厳密に)
Root-Membrane Technique は、組織形態の維持が期待できる一方で、症例選択と術式の精度が非常に重要です。 当院では、以下を前提として慎重に検討します。
- 適応の確認:歯周病による付着喪失が目立つケース、急性炎症が強いケースなどは原則として適応外
- 診査の徹底:CTで頬側骨の厚み・欠損形態、歯根形態、感染所見の有無を総合評価
- 代替案の提示:骨造成(GBR)やソケットプリザベーション、タイミングをずらした埋入なども含めて比較検討
- リスク説明:歯根片に関連する感染・吸収、長期予後データの限界などを説明し、同意の上で判断
当院が治療設計に反映している技術的ポイント
- 頬側組織を守る「抜歯・歯根処理」
論文では、頬側の歯根片を残しつつ、歯肉縁下での調整や、 軟組織を支えるための「支点(supracrestalに0.5〜1mm程度残す考え方)」が示されています。
当院でも、審美領域では頬側組織に不要な外傷を与えない操作設計を最重視します。 - 埋入方向(口蓋側寄り)
審美領域では「どこに入れるか」が結果を左右します。論文でも、ドリリングは口蓋側を意識して開始し、 頬側の歯根片・組織スペースを守る設計が示されています。
当院でも、プロビジョナル設計まで含めた“補綴主導”のポジショニングを基本としています。 - 暫間補綴の考え方(非機能負荷)
論文では、即時に暫間補綴を行いながらも、咬合調整で「非機能負荷」とし、治癒環境を整えています。
当院でも、組織の成熟を見据え、暫間補綴の形態・接触・清掃性を含めて設計します。
まとめ
Mitsias らの論文は、Root-Membrane Technique(PDL-mediated ridge preservation)を、 審美領域で再現するための「手順」と「考え方」を具体的に示した重要な報告です。:contentReference[oaicite:1]{index=1}
当院では、こうした文献を治療計画の土台として参照しつつ、患者さん一人ひとりの状態(骨・歯ぐき・感染リスク・ご希望)を踏まえて、 適応を慎重に見極めた上で、最善の方法をご提案しています。 「骨が薄いと言われた」「前歯のインプラントが不安」など、気になる点があればお気軽にご相談ください。
本当に後悔しないインプラント治療を東京で
東京審美インプラント治療ガイド
監修:松本デンタルオフィス東京
所在地:東京都東大和市清原4丁目10−27 M‐ONEビル 2F
電話:042-569-8127
*監修者
医療法人社団桜風会 松本デンタルオフィス
院長 松本圭史
*経歴
2005年 日本大学歯学部卒業。2005年 日本大学歯学部歯科補綴学第Ⅲ講座 入局。
2006年 日本大学歯学部大学院 入学。2010年 同上 卒業。
2010年 日本大学歯学部歯学部歯科補綴学第Ⅲ講座 助教
2013年 日本大学歯学部歯学部歯科補綴学第Ⅲ講座 専修医
2016年 医療法人社団桜風会 松本デンタルオフィス 新規開院
*所属学会
・日本補綴歯科学会
・日本口腔インプラント学会
・日本歯科審美学会
・日本顎咬合学会
*スタディグループ
・5-D Japan
・Esthetic Explores
詳しいプロフィールはこちらより


























